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AmPmのヒットに見られるガラパゴスミュージックと音楽業界の衰退

 

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AmPmというミュージシャンがいる。詳しいことは下記のサイトを読めばだいたい理解してもらえると思う。
 
簡単にまとめると、無名のミュージシャンがSpotifyを利用して人気になり、海外ファンが90%以上という状態を作り出しているということである。
 
 
 
 
 
日本の音楽業界のことについては、ブログの筆者が『ヒットの崩壊』という本に書いているようなので改めて読んで、また感想をブログに書いてみたいと思うが、ある程度は読む前から想像がつく。
 
おそらく、
 
・ CDという販売形態にこだわった日本の音楽業界がたよった握手会商法への批判
・ デジタル定額ストリーミングの世界的な普及とユーザの視聴行動の変化
Youtubeがもたらした言語の壁の越境
・ チャンス・ザ・ラッパーの成功にみられるインディーズとメジャーのバランスの崩壊
 
このあたりを中心に、ヒットの方程式が変わってきているこに、日本の音楽関係者はもっと敏感になったほうがよいというような論旨ではないかと予想される。
 
上記をベースにさらに筆者が深い考察や分析がなされているかは改めて本を読んでから書きたいと思うが、ここでは、AmPmについての見解を述べたいと思う。
 
まず、彼らの音楽や作家性そのものは決して特別なものではない。
 
音楽自体は聴きやすくお洒落でわかりやすいchill musicである。
 
謎の覆面アーティストと謳われているが、覆面自体はDaft PankやMAN WITH A MISSIONにみられるようにすでに先行事例があり、決して特別なわけでない。むしろ、特別なことをしようという意気込みもなく、単に顔出ししたり素性をさらけだすことによるメリットがなかっただけのことだろう。
 
面白いところの一つ目は、彼らの本業が音楽ではなくデジタルマーケティングにあるところだ。インタビューではクリエイティブと書かれているが、おそらくデジタル系を中心としたクリエイティブプロダクションではないかと予想される。
 
そして、端的に言えば、デジタルマーケティングのプロがきちんとした現代的な戦略をとって、音楽がある程度、世界のトレンドに乗っていれば、それなりに日本のメジャー音楽プロダクションよりよい成果が残せるという単純な話である。
 
これは、ひとつのイノベーションのジレンマの形でもあり、日本の既存の音楽業界が、できるかぎりヒット(特に国内)を狙えば狙うほど、予定調和な音楽しか生み出さず衰退の一途をたどり、副業的に自由な発想でクリエイティブな活動を行うインディーズに勝てないというガラパゴス現象の象徴である。
 
日本の音楽シーンの中で、どのような楽曲を作ればどの程度売れるかという方程式はすでに音楽業界のプロであれば頭の中にできている。しかしながら、そこから脱却することがなければ、結局、日本では、盆踊りや演歌のようなJ-POPしか流行しない。
 
長くアイドルブームが続いているが、やっていることは踊り子たちが盆踊りを踊っているだけで、特に目新しい要素があるわけではない。日本では何百年前からやっていたことである。
 
異常な枚数CDを買いすぎてニュースになる若者がたまに話題になるが、百年以上前でも、稼いだお金をすべて注ぎ込んで踊り子にのめり込む若衆もいたことであろうから、昔から何百回も繰り返されてきたことである。
 
日本でそれなりに流行した後にレコード会社やプロダクションが世界進出を狙わせることも多いがこれもほとんど成功しない。
 
盆踊りがUSAヒットチャートで上位にならないのは、日本のヒットチャートでインドネシアケチャがある日、突然、ヒットしないのと同様で、国民性や文化により、何を気持ちいいと感じるかが異なるので、本当にヒットを狙うのであれば、国民性を理解した文脈に乗せて戦略を練る必要があるが、日本の音楽業界はグローバルビジネスが苦手なのでこれがほとんどできない。やるべきことはクールジャパンという意味のわからない標語に基づいて盆踊りの押し売りをすることでなく、文化人類学や宗教を学んで相手の国のフレームワークを理解することである。西洋という単純な言葉で呼ばれるが、キリスト教を理解せずにアメリカのヒットチャートの上位をとることは絶対にできない。
 
中には、グローバルなトレンドを熟知しているプロデューサもいるかもしれないが、会社のしがらみが原因でほとんど有効なことはできない。
 
むしろ、チャンスはそういったしがらみに縛られないインディーズのミュージシャンにある。
 
インディーズミュージシャンが成功したければ、本当にやるべきことは、メジャーの亜流のような2軍的な発想ではなく、世界を見据えたマーケティングであり、しっかりとしたデジタルマーケティングなのである。
 
今後、AmPmの成功に触発された若いミュージシャンが次々に自由な発想で世界を意識し始めるだろう。soundcloudを主戦場に、CDを一枚も出さずに、有料音楽を一切配信せず、東京ドームを埋め尽くすスターも出てくるかもしれない。成功するコツは、テレビにもラジオにも、メジャーレーベルとも既存の音楽事務所とも一切、契約しないことである。もし契約するなら、デジタルマーケティングのプロと契約する方がよい。マーケティングするのであれば、デジタルデータのマイニングをするべきであって、競合はソニー東芝ではなく、AmazonGoogleだと思った方がよい。
 
売れるまで素性を一切明かさないことも重要かもしれない。
所詮、日本は村社会である。
中途半端な迎合は村八分を生み出す。
 
徹底的に、日本の音楽シーンと既存の商流を無視することが世界的に有名な日本人ミュージシャンを生み出していくだろう。若いアーティストに求められているのはグローバルベンチャーを作って、大きくしようという意気込みと戦略である。
 
すでにヒントは出てきている。楽しみである。