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銀行消滅 - 銀行マンが仮想通貨で農作物を売る日

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大手3大メガバンクが大規模なリストラを発表し、銀行消滅というキーワードがニュースメディアを賑わせた。もちろん、銀行消滅というのはセンセーショナルな見出しで注目を集めるためのキャッチーなキーワードという側面が強く、実際には今すぐ銀行がなくなるわけではない。
 
 
 
 
 
しかしながら、大手メガバンクの経営計画にリストラクチャリングが盛り込まれたというのは現場レベルでのFintechの影響がすでに目の前に迫っており、あるいは始まっており、今後の銀行経営上、そこを避けては通れないという判断をしたということのあらわれである。
 
 
ハーバードビジネスレビューはもっと辛辣に、今後、イノベーションを起こすことに失敗した銀行の90%は10年以内に消滅すると予想している。
 
いずれにせよ、今後、10年は金融の世界に大きな変化が訪れる準備が整ったといえるだろう。
 
銀行が生き残るためにはビジネスモデルの変化が求められる。
 
銀行が行っている主な業務には、「預金」、「融資」、「為替」の3つがある。
 
そして、その3つともに、これまでの業務と同等のビジネスモデルでは生き残れない。
 
預金…マイナス金利による金利収入の減少
融資…AIによる自動融資。クラウドファンディングICOなどの新たな調達手段の増加
為替…ブロックチェーンの利用による為替手数料収入の競争激化
 
これから、金融業界に起きることは、紙幣や貨幣の減少であり、仮想通貨を含めた、デジタルマネーの増加や金融テクノロジーの発達に伴うサービスの多様化である。
 
従来型の銀行業は、決して現代的なITテクノロジーに強いわけでなく、むしろ重厚長大で融通のきかないレガシーシステムを他社に依頼し、つぎはぎをしながら維持しているという構造の方がイメージに近い。
 
みずほ銀行の基幹システムの統合がサクラダ・ファミリアだと揶揄されていたが、まだ完成した?だけましである。
 
複雑に絡み合ったソースコードのことをスパゲティコードと呼ぶが、一生懸命、スパゲティをほぐしている間にすでに勝負が決まっているのがITの世界であり、今後はスピード感が市場シェアを取る上で最大の武器となる。
 
そういった意味で、既存の銀行業は極めて不利を強いられている。法制度によって守られていること、信頼できるブランドイメージを持っていること、顧客との長年に渡る接点と情報を持っていること、という点以外は、新興ITベンチャーAmazonGoogleというようなITメガベンチャーの方が明らかに有利な戦いである。
 
これから始まるITを中心とした金融革命の中で、銀行内部の業務自体も見直しを図られるだろう。
 
現代ビジネスの記事では、下記の業務がAIによって置き換えられるだろうと予測されているが、
 
(1) 顧客に接触しない事務処理
(2) コールセンター等の定型的な顧客対応処理
(3) 支店窓口等の定型的顧客対応
(4) 個人向け等の小口ローン
(5) 法人向け融資
 
最も高度で人的スキルが必要とされている(5)の法人向け融資ですら、現在は、ほぼ人的業務ともいえない状況となっている。決算書によるリスク評価に基づく融資がほとんどであり、よく銀行が、「雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を差し出す」と言われる所以である。
 
だが、これは銀行の構造上、仕方がない側面もある。銀行はベンチャーキャピタルとは異なり、できるかぎり安全に資産を運用することが仕事だからである。
 
だが、ビジネスとはそもそもリスクを取らずに行うことはできない。銀行がリスクマネーの提供ができない以上、資金調達は自ずと他の調達手段に移行していくだろう。
 
これから起きることは、ほぼあらゆる意味で既存の銀行業を脅かすだろう。
 
では、既存の銀行業に生き残る術はあるのだろうか。もしくは、今、現在、銀行員をしている行員はどのようなキャリアステップを描くことができるだろうか。
 
ひとつは、金融のプロとしての付加価値の提供である。
 
Fintechによる金融の多様化は金融の敷居を下げる代わりに、情報の爆発を生み出す。消費者や企業にとっては資金調達や金融商品の運用自体の方法が増えすぎて判断できない状態というのが予想される。
 
銀行は金融のプロとして、そういった個人や法人に対して、アドバイザリー業務の提供を行うことが予想される。
 
例えば、金融のプロとして与信を与えていくデータビジネスの可能性がある。これは帝国データバンクなどの信用調査会社が行っている仕事である。銀行ならではの金融データをマーケティングデータと組み合わせながら、信頼性の高い情報を有償情報として提供していく。
 
あるいは、銀行マンが企業に代わって、資金調達の支援を行うという仕事も考えられる。企業の外部ファイナンス担当者として、ベンチャーキャピタルから出資を引っ張ってきたりクラウドファンディングを実施するのだ。
 
これは、管理人の勝手な推測だが、これからの社会では、「代行業」自体の価値が急激に下がっていく時代が来るのではないかと予想している。
 
たとえば、銀行業は、資金の取り扱いの代行であり、システム開発会社は企業のシステム開発の代行業である。広告代理店は、企業の広報の代行である。
 
これまでそういった代行業は、企業のアウトソース先として大きな機能を担ってきた。それは、自社の中だけで専門性を培うには情報が少なかったからこそ成り立ったビジネスである。
 
だが、この情報社会の中ではむしろ、他社に任せてしまうとスピード感が出ずにノウハウも構築されない。
 
日本の大手企業は資金調達能力を大手銀行に握られ、マーケティング能力を大手広告代理店に握られ、基幹システムの構築を大手SIerに握られている。そして、それらの機能が分断されていることで、スピード感を犠牲にしている例が多い。
 
これからのデジタル社会では、金融もITも広告もマーケティングもデータビジネスとして一体化していく。
 
そういった社会では、自社内で小回りの効くジャンル横断チームを柔軟に編成し、新たなイノベーションを自発的に仕掛けていくような企業の方が強い。
 
銀行がイノベーションの創造を積極的に担う役割を担えないのであればお役御免となるであろう。
 
そして、そういった旧態然とした銀行ではリストラクチャリングが進み、人員削減が進むだろう。
 
それでは、人員削減された銀行マンはどのようにすれば良いのだろう。
 
簡単である。
 
農業・介護・建設・飲食・物流・伝統工芸etcetc
 
これからの日本では人手不足が進み、産業の担い手がいない業界や企業が膨大に出てくる。
 
そういった業界は金融やITのプロが少ない。
 
リストラされたあなたは、農林中金やJAから融資してもらうことしか知らない老人たちの代わりに農業専門の仮想通貨の発行を支援してあげればよいのだ。
 
日本は昔から現金信仰が強く、アメリカや中国のようなキャッシュレス社会への移行が進むのかどうかまだ半信半疑の人も多いだろう。
 
アメリカでクレジットカードが急速に進んだのは広大な国土で現金を流通させること自体に盗難リスクが多かったためだと言われている。中国でモバイル決済が急速に普及したのは偽札や詐欺が多かったからだと言われている。WeChatPayとAliPayの急激な普及により、一番最初に職を失ったのが、泥棒であり、二番目に職を失ったのが偽札工場とのことだ。
 
日本人に取って、お金はお米のメタファーでイメージされていることが強く、今の財務省も昔は大蔵省と呼ばれていたように、蔵に米を預けるイメージというのが日本人にとっての預金である。
 
米というのは蔵に預けていても腐ったりしない。天変地異が多い日本という土地では、お金は銀行に預けているのが一番安心感があるのだ。
 
しかしながら、日本でキャッシュレス社会への移行が進むとすれば、そのきっかけになるのはかつてないほどの人手不足であろう。
 
企業の生産性を高めない限り、優秀な働き手を確保することはできない。
日本企業でも自然と合理化が進んでいき、合理化に失敗した企業は淘汰される。
 
お米を蔵で寝かせておくのではなく、新たなお米づくりの仕組みを作ってあげることこそがこれからの銀行マンの一番の仕事になるであろう。