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新しい地図と新しい家具と新しい政治

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新たな時代の衣装をまとった女が時代遅れの老人に戦いを挑む物語。
 
3つの物語が世間を賑わせている。
 
3人の果敢な女性とは、そう、飯島三智、小池百合子、大塚久美子の3人である。
 
彼女たちは時代遅れの老人に戦いを挑むため、「新しい」という旗を掲げ、革命を志した。
 
そして、大塚久美子女史の革命は早々に失敗し、小池百合子女史も致命的な敗北を期し、飯島三智女史の革命は一見、よいスタートを切ったかのように見える。
 
前代未聞の企画にもかかわらず、72時間、一度もサーバーを落とすことがなかったというこの地味な成果はインターネットに詳しいユーザーたちの賞賛を得ている。世間は伝説の72時間の熱狂からしばらく覚めないだろう。
 
 
 
だが、注目すべきは女たちの戦いは本当に成功するかどうかということである。
そして、どのように戦えば成功するのか、その戦略論と戦術論である。
 
大塚久美子氏の革命から見てみよう。
 
大塚久美子氏の失敗については、多くの場所で多くの識者が述べているのでここでは触れない。
 
 
大塚久美子氏は、
・婚礼家具という「幸せ」の象徴を「戦い」のイメージで塗りつぶしてしまった
・みずからの行動自体が、IKEAニトリのようなビジネスモデルへ転換するというメッセージとして受け取られることを想定してい なかった
コンサルティングファームの書く絵は所詮は絵に描いた餅であり、人間を動かしているのは、義理と人情であるということへの配慮が足りなかった
 
という3つのわかりやすい失敗を犯すことで、窮地に陥った。
 
TKP社との業務提携が話題になっているが、おそらく先がない。このまま、倒産への道をまっしぐらに突き進むか虎視眈々と状況を見る狡猾なファンドたちが乗り込んできて買収劇に巻き込まれるだろう。
 
 
 
小池百合子氏の失敗は、「排除」という言葉に象徴されている。
 
 
赤坂真里氏が指摘しているように、「排除」とは強者の言葉であり、戦いを挑む勇者がまとうイメージではない。
 
その言葉を小池百合子氏が使ったかどうかは別にしろ、「排除」という言葉が独り歩きした時点で小池百合子氏の負けである。
 
小池百合子氏は、大塚久美子氏のような致命的な敗北は喫してない。東京都知事としての実績がほぼ出ていない現状から一種の敗北のようなものだとも思うのだが、政治は水もの。新たな打ち手によって今からまたオセロをひっくり返すこともできるだろう。
 
 
 
 
飯島三智氏の革命はどうだろう。
 
 
飯島三智氏の革命は藤田晋氏という類い稀な天才勝負師との利害関係の一致という幸運に支えられ、一見、大成功したように見える。
 
むしろ、革命に意欲的だったのは藤田晋氏の方だったかもしれない。飯島三智氏があくまで裏方に徹し、表に出なかったことも成功のひとつの要因だろう。革命を志す果敢な勇者を影で支えて理解を示す可憐な女性というイメージは世の中の支持を得やすい。
 
インターネットという新しい武器を得た国民的アイドルとインターネットを知り尽くした実業家と組織の中でやりたいことを自由にできないテレビ局の若手スタッフがタッグを組めばどこまで面白いことができるのか、今後、注目である。
 
 
と3つの物語が世間を騒がせているが、もう一度、論点に帰る。
 
革命は本当に成功するのだろうか。
 
 
この記事でも言及したが、ロシアの偉大な量子物理学者で作家であるヴァジム-ゼランド氏が指摘しているように、巨大組織との戦いは不毛な結果に終わることが多い。巨大組織との戦いに消耗している人はぜひ、この不思議な本を読んでみてほしい。
 
「振り子の法則」リアリティ・トランサーフィン―幸運の波/不運の波の選択

「振り子の法則」リアリティ・トランサーフィン―幸運の波/不運の波の選択

 

 

誰もあえてこのタイミングで指摘はしないだろうからあえて言うが、(昔の)大塚家具にせよ、ジャニーズ事務所にせよ、ビジネスモデルは極めて優れている。時代にそぐわなくなってきたというだけで、保守的に守りの経営に徹すればまだまだ生き永らえるビジネスモデルである。「新しい」というだけのイメージ戦略だけで勝てるようなやわなものでは決してない。守りの経営というのは老人の戦略であり、世間の評判は得られないだろうが、世間から何と言われようが狡猾に生き延びるのもまた一種の老人の知恵である。
 
大塚久美子氏が新旧の価値観それぞれの立場から批判されるのは、新たな革命が失敗しただけではなく、旧来型の保守派が老人の知恵で生き延びる芽も刈り取ってしまったからである。父親の大塚勝久氏は結局、匠大塚という形で老人の知恵を生かす場を別に作った。おそらく大成功はしないだろうが、細々と続けていれば生き永らえていくだろう。少なくとも、ファンドのおもちゃにされずにはすむ。
 
 
 
 
では、果たして3人はどうすれば、よい(よかった)のだろうか。
 
ポイントはゲームチェンジャーになることであり、気がつかないうちに徐々に巨大組織を食い尽くすウィルスの戦略を取ることである。
 
例えば、大塚久美子氏は、店舗で、特定の営業マンが接客するスタイルを廃止した。本人が何度もメディアで述べているように、大塚家具は決してIKEAニトリのような安売り路線へ戦略転換するのでなく、接客型の営業が時代に合わないから廃止しただけである。
 
一見、正当なこの主張がまったく理解されず、大いに誤解されるのは、改革が中途半端だからである。営業スタイルを少し変えるだけでは革命でもなんでもない。国民が期待しているのは狡猾な老人との戦いであり、誤解した国民たちは暴走して、大塚久美子氏の思惑とは無関係にIKEAニトリに戦いを挑む物語を勝手に創造していく。
 
大塚久美子氏に配慮が足りなかったのは、この「人間は見たいものだけをみて、信じたいことだけを信じる」というこの習性に関する点である。多くの人にとっては、営業スタイルなんてどちらでも構わないのである。
 
本来、大塚久美子氏がやるべき革命は、単なる営業スタイルの変革以上の大革命であったように思える。
 
時代の流れに沿っていうと、彼女がやるべきだった革命とは、家具を売ることをやめることだったのではなかろうか。
 
そう、家具のサブスクリプションサービスである。
 
海外に行けば、一軒家の賃貸も家具付きという条件が多い。
 
嫁入り道具を一式揃えて一軒家に住むというマイホーム幻想が崩れてきているというのであれば、いっそのこと、家具はいつでもどこでも定額で交換し放題にすればよかったのではないだろうか。
 
世間にはいわゆる家具のサブスクリプションサービスというのはほとんどない。
あったとしても世間の認知が得られるほどのブランド力をもったサービスはない。
 
大塚家具、家具売ることやめるってよ
 
という大胆不敵なコンセプトは、新生大塚家具のイメージにふさわしい
 
藤田晋氏が勝負師として注目されるのは毎年200億円を突っ込んですべて赤字でも構わないというその思い切りの良さである。この腹の据わり具合は誰にも真似できない。
 
ここまで腹を括られると一人勝ちである。
 
大塚久美子氏にもここまで腹の据わったビジネスパートナーが見つかれば、まだ復活劇もありえるかもしれない。小池百合子氏は前原誠司氏というビジネスパートナーを得て改めてどこに向かうのかが問われている。
 
女たちの時代遅れの老人との戦いは世間の注目は浴びられるが、所詮、野次馬たちの物見遊山である。
 
本当に新しい地図と新しい家具と新しい政治を作ることができるのは新しいルールを作ろうとする起業家精神だけであろう。