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アパレル業界は絶望の後、一番面白くなる業界である

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誰がアパレルを殺すのか

誰がアパレルを殺すのか

 

 

現状のアパレル業界の絶望的な状況を整理した本書は今年話題になった一冊である。
書評に関してはすでにいくつも書かれているのでここでは改めては書かない
 
 
 
仕事柄、アパレル業界や流通業界のいろいろな会社と商談をしているので、この本については、読む前から書かれていることについては、おおよそ理解していたし、想像の範疇を超えなかった。
 
そういう意味では、本書はアパレル業界の予定調和的な結論を綺麗に整理した本だということが言える。
 
ここでは、本書で述べられていない観点とアパレル業界、復活のためのヒントをいくつか述べたいと思う。
 
これは、様々な観点から何度も述べているが、1990年代までは、大きな物語が有効な時代であった。それは、日本が高度経済成長の元に世界一の国になるという物語であり、戦争に負けた国の復活物語であり、欧米の一流国家に追いつけ追い越せで国家が幸せを享受できた時代である。
 
80年代のDCブームはまさに、欧米に憧れる大量消費社会が産み出した現象であった。その時代は、海外の一流ブランドを消費することがステータスであり、欧米のモノマネをただするだけでかっこいいともてはやされた時代である。そういった意味では、80年代、90年代の日本と同じ状況にあるのが中国であり、ルイヴィトンのカバンを買った り、スワロフスキーの宝石を買ったこと自体が自慢できる状況である。これは、非常にわかりやすい環境である。つまりはすべてスペック社会である。appleがいい、サムソンがいい。お前のハードディスクは何ギガバイトだ。俺なんて、テラバイトだぜ、と自慢すれば、ステータスが得られる極めて単純な世界である。中国がアメリカに追いつこうとしているが、中国が生み出せていないのが自国のブランドであり、海外のブランドを消費するだけで経済が回るときは対して努力も必要ないのである。中国もやがて、バブルが崩壊し、日本のように独自ブランドをいかに生み出すかというジレンマに苦しめられる時代を迎えるだろう。
 
90年代に入り、日本社会では大きな物語が崩壊した。ひとつはバブルの崩壊であり、もうひとつはインターネットの普及である。
 
バブルの崩壊は、日本社会に大きなダメージを与え、バブルの頃とはまったく真逆の価値観が生まれた。これがストリートカルチャーであり、日本のファッションを世界一まで高めたサブカルチャーの思想である。お金がないなら、自分たちで工夫すればいいじゃん、古着をアレンジし、異なる文化をミックスし、欧米の常識を否定していく。世界が憧れるクリエイティブな文化がTOKYOに生まれた。
 
もうひとつの要因はインターネットの普及である。ポケベルで男女が待ち合わせをしていた頃は恋愛という大きな幻想があった。たまにしか、相手と連絡も取れない。待ち合わせをしても会えるかどうかわからない。携帯電話もない頃は待ち合わせてうまく会えないとそのまま恋が終わるようなことがたくさん合った。
 
ところが、インターネットが日常生活のリアリティを強化した。
いつでも連絡を取ろうと思えば取れる。
相手が書いている日記がいつでも閲覧できる。
LINEで毎日連絡が取れる。
恋愛とは相手に対する妄想であり、妄想がなくなっていく過程がインターネット発展のプロセスである。
 
最近の若い人のセックスが減っているのは、インターネットのせいだろう。
特に日本では、いつでも連絡が取れる状況というのは、恋愛的価値観でなく、家族的価値観の方が主流になり、恋ということがわからなくなる。
 
 
このふたつの要因により、かつてのアパレル業界が持っていた憧れやステータスが崩壊した。ユニクロの事業拡大というのは、この幻想の終焉がもたらした現象ということができるだろう。
 
本書にも述べられているが、この流れを踏襲すると、これからのアパレル業界が直面する現象がよくわかる。おそらく次は欧米の一流ブランドに対する憧れの終焉が訪れるだろう。これは、本書でもあるようなエバーレーンパタゴニアのような企業がもたらすであろう。トレーサビリティや原価率の開示がこれまでの欧米の一流ブランドが保っていた価値観を崩壊させる。ダイアモンド鉱山が奴隷ビジネスによって成り立っていることがいくらでもインターネットの情報から得られるときにミレニアム世代がダイアモンドを所有することに憧れるだろうか。
 
 
20世紀とまったく異なる21世紀の価値観は、ダイアモンドを所有することを自慢するようなひとは、ただの成金であり、はっきり言ってダサいのである。これは、ダイアモンドだけでなく、ファッションにも車にも住宅にも言える。
 
ジャスティンビーバーwwwww
 
という言葉がまさにミレニアム世代の価値観を表している。
 
まったくクールでないのである。
 
国内でも50代のおっさんがいい車に乗っていることを自慢するときに、今の若者は性格がいいので、すごいですねーというが、内心は、おっさん、ださい、ワロタ、くらいにしか思っていないのである。
 
話を戻すが、これまで様々な業界のひとと話す中で、やはり一番腐っているのが百貨店業界である。
 
アメリカでは、Amazonによって、小売業やショッピングセンターがどんどんなくなっている中で、百貨店業界の多くのひとと会話をしたが、Amazonがライバルだと真剣に思って危機感をもっている企業はほとんどなかった。言葉尻はネット通販だとかオムニチャネルだとか、いろいろなことを言っているが、真剣に取り組もうとする企業は皆無である。まだまだ偉そうに仕入業者からの提案を受けているだけで給料がもらえると思っている部長がほとんであり、この時点ですでに業界としては終わっている。おそらく、10年もすれば、百貨店が建っている場所には、ZOZOTOWNが自社の店舗を構えているだろう。AR/VRを駆使してショールーム型、キャッシュレス型でAIと3Dプリンタを駆使して完全にパーソナルな衣服を仕立ててくれる仕組みを作っているだろう。
 
ユニクロの柳井さんは、いちはやく、ユニクロをIT企業にすると宣言した。
 
 
スターバックスもコーヒーを売る会社がITを活用するのではなく、IT企業がコーヒーを売るという業態にチェンジすると宣言した。こういった企業は生き残ることができるだろう。
 
と散々、アパレル業界の悪口を言ってきたが、実は、逆説的に一番、これから期待しているのが、アパレル業界である。
 
ファッションというのは、単に服がかっこいいというだけではない。
 
ファッションというのは、生き方であり、ファッション業界には、何が本当にかっこいいのかの再定義が求められているのだ。
 
それは、20世紀型の消費型の価値観でなく、例えば、下記の記事で取り上げたような、異文化のミックスドカルチャーであったり、サステナビリティを考えたものづくりであったり、職人さんと触れあることを重視するコミュニティビジネスであったり、AIやセンサーを駆使したIoTデジタルファッションかもしれない。
 
 
いつの時代も時代の価値観の変化はファッション業界にまずは生まれる。
 
世界で初めてのボン・マルシェ百貨店は消費社会という価値観を初めて提示した。
 
今、求められているのは、新たな時代にふさわしい新しい百貨店なのではないだろうか。それは、20世紀の百貨店とは真逆の価値観を提唱する百貨店であろう。