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今までであった営業マンの中で過去最高の営業マンの話

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仕事柄、何百人の営業マンの営業を受け、同時に自分自身も何百件のクライアントに営業をしてきた。自分が営業をし、受けていると営業のなんたるかがよくわかる。そして、私が過去、一番営業ができると思った営業マンの話をしたいと思う。
 
普通の人の営業マンのイメージとはどんなものだろうか。
 
・流暢に商品/サービスの説明をしてさらりと契約を取る
・強引にお客さんを説得し、無理やり契約を取ろうとする
・一生懸命、自分を売り込み、情に訴えて契約をしてもらう
 
営業マンのスタイルは異なるだろうが、普通の営業マンはこういうイメージだろうし、営業のできる/できないの差はあっても、一般的には上記のような範囲で営業がなされる。
 
だが、私が出会った最高の営業マンのスタイルはまったく異なっていた。
 
できる営業マンの話をする前に、ちょっとした笑い話として、史上最低の営業を受けた話をしよう。
 
某有名IT企業に問い合わせをした時のことだ。
たいした案件ではなかったのだが、なぜか、その営業マン達は6名で訪問してきた。
案件の規模に比べて人数が多すぎるというのが第一印象だったが(おそらく、一人の営業マンが来るだけで十分な規模だ)、営業マンが多すぎて困ることはないので、まあ別によいかと思い営業を受けた。
 
その中で一番若い営業マンが会社説明を始めた。
 
ああ、これは、新人営業マンの教育研修も兼ねた営業なのだと一瞬で理解した。
 
通常、新人営業マンの営業の時にベテラン営業の先輩や上司が同行して営業を行うというのはよくあるスタイルである。
 
それにしても、2名で十分なのになぜ6名という疑問は浮かんだが、まあ、よいかと話を聞き続けた。
 
そして、その営業トークの中で新人営業マンがやりがちな典型的なミスが発生した。
 
御社と弊社を逆にしてしまったのだ。
 
これは、営業新人マンあるあるネタで、これまで何万回もネタにされてきた間違いである。
 
お、典型的なあるあるネタだと、笑いをこらえながら、話を聞いていた。
 
問題はその後である。その後、1時間の営業トークの中で、その新人営業マンは何十回も御社と弊社を間違え続けて、結局最後まで間違えたままだった。こちらが冷や汗をかきそうな、吹き出してしまいそうななんとも言えない微妙な空気が流れる。よっぽど、指摘してあげようかと思ったが、先輩営業マンの面子をつぶすと思って言わなかった。
 
おいおい、6人も先輩・上司達が来ていて、結局、最後まで指摘しないのかよ!
 
という心の中のツッコミとともに商談が終わった。
 
結局、その新人営業マンだけが最後まで話し続け、先輩・上司営業マンたちは最後まで何のフォローもしなかった。いったい、6人の先輩営業マン達は何のために来たのだろうか。
 
その会社と契約しなかったことはいうまでもない。
 
新人営業マンの問題でなく、先輩・上司たちの無能さが際立った、過去、最低のいまだに記憶に残る珍営業体験である。
 
という、前置きをした上で、本題の過去もっとも営業ができた営業マンの話をしよう。
 
その営業マンは、朴訥とした印象で営業にやってきた。
営業マンという風でなく、システムエンジニアを思わせる風貌だった。
第一印象は、あまり営業ができなさそうだなという印象である。
美男子でもないし、背も高くない、いわゆる典型的なできる営業マンのイメージとは真逆のタイプである。
 
一般的なスタイルで名刺交換をして、営業マンが席に座る。
 
すごいのは、その後である。
 
通常、営業マンが席に座るとその後の典型的な行動は、世間話をするか、会社説明をするか、サービス資料を机の上に出して、なんの話題を切り口に営業トークを始めるか探ろうとする。
 
古典的な営業トークは天気の話をしたり、オフィスを褒めたり、名刺の名前を見て珍しい名前ですね、とか苗字から出身地の話につなげようとする。
 
そのできる営業マンは、そういったことをまったくしなかった。
 
席に座り、資料も出さず、そして、何も自分から話そうとしない。
 
待っていても何も話さない。
 
いわゆる沈黙の間が生まれる。
 
こちらも営業を受けることには慣れているが、こういう営業マンはさすがに初めてである。
 
沈黙の間に耐えられず、こちらから、話を始める。
 
営業マンというのは、よくサービスの説明や会社案内から話をはじめるが、これは新人営業マンのスタイルであり、ある程度の歳をとった営業マンがこういう始め方をすると、営業に慣れていないか、営業ができないかどちらかだという判断が働く。もちろん、こういうスタートからうまく顧客ニーズを引き出すトークに持っていける営業マンもいるが、顧客がなんの話をしたいかをうまく探りながら、営業トークの順番をコントロールできるのがベテラン営業マンの営業スタイルである。
 
問い合わせをする方も、発注慣れしている会社や担当者というのは、事前にホームページからサービスの詳細や競合他社との比較や、その企業の資本関係や取引先について、ある程度情報収集をしてから問い合わせをするので、一般的なサービス説明や会社案内は実はあまり必要ではない。
 
むしろ、事前の調査ではわからなかった点をピンポイントで聞きたいから営業マンを呼んでいるのだ。
 
こちらも世間話などに時間を使う気がないので、端的に質問したいマニアックな質問をする。
 
その営業マンがさらにすごいのは、そうした私の質問に対して、的確な答えだけをただ答える。
 
余分な情報というのが一切ない。
 
顧客が本当に質問したいことを一瞬で理解し、模範解答のような100%それが聞きたかったのだという答えだけを答える。
 
まるでGoogleかロボットかのような対応である。
 
そして、また沈黙の時間である。
 
次の質問をする。また的確な答えだけが帰ってくる。
 
検索するとノイズのような検索結果しか出てこないGoogleよりよっぽどよい。
 
雑談をすることを楽しみにしているような発注担当者には好まれないだろうが、時間を無駄にせず、効率的な商談をしたいというタイプにはこの形が一番よい。
 
聞きたいことにシンプルにもっとも望んだ答えが返ってくる。
 
最短時間で契約することになった。なったというより契約することに決めた。
 
ここまでの的確な営業ができる営業マンなら間違いなく安心して発注できるし、発注後も予想外のトラブルなども起きないだろうと思わせる。そして、その営業マンのせいでなくトラブルが起きたとしても嘘偽りなく、なぜそのトラブルが起きているかを報告してくれるだろうから、発注側としても的確な対応ができるのである。
 
結局、多くの営業マンが信頼されないのは、嘘や大げさや歪曲や誤解や知識不足などの理由で、現場の状況を的確に顧客に報告できないからそうなるのである。
 
顧客が望んでいるのはリップサービスではなく、正確な情報である。
 
彼は、そういった意味で、最強の無言の営業マンであった。
 
同じ無言の営業マンでも過去最低の上司・先輩の無言の営業とは真逆の意味でもすばらしい営業マンである。
 
商談が終わると、彼はフラットに帰っていった。あたかも来る前から契約をしてもらえるかがわかっていたように、フラットな態度で形式的なお礼だけ言って、次の商談のために早く行かなければいけないという態度でさらっと帰っていった。彼ほどの能力があれば、電話で問い合わせた段階で、どの瞬間に契約が取れるのかも一瞬で見抜いていたのかもしれない。
 
まさに、発注側が惚れ惚れとする営業であり、容姿とは真逆に女性にもモテるに違いない。
 
その後、かなりの時が経ち、こちらも立場が色々と変わったので、今となっては、どこで何を売っているかがわからなくなってしまったが、会えるのならまた今でも会ってみたいと思わせる、一生記憶に残り続ける過去最高の営業マンである。